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2005年7月 9日 (土)

旅の記憶ⅩⅢ 食堂「さくら」

チェンマイにも日本料理の店がある。

ガイドブックを頼りにぼつぼつ路地を歩き、やっとその店
を見つけることができた。
レストランという紹介だったが、実際には田舎食堂
といったほうがいいようだ。

入り口では、四人か五人のひとが縁台で将棋のような
ものをやっている。
日本語で話しているのが聞こえた。

私はその店の中に入っていった。
店内はテーブルが四つか五つある程度の小さな構えだった。
ビールと簡単な丼ものを注文し、できるのを待っていた。

注文したものが出され、ぼそぼそと食べていると、となりの
テーブルに日本人の家族が入ってきて、店の主人と気軽に話を交わしている。
こっちにはだいぶ滞在しているようだ。
家族での会話がすぐ横で聞こえてくるが、どこかで聞いたことのある方言だ。

「どちらから?」
と私は訊ねた。

驚いたことに、その家族は自分と同郷の人だった。
自分より少し年上の旦那さんと奥さん。そして小さな娘だった。
タイの民芸品や骨董品を買い入れ、日本に持ち帰って売るというような
商売をしているそうだ。
ここにきて出会うとは奇遇だと思った。

「はなび はねぇ」
その小さな娘は父親に何か話しかけている。
はなび という名前のようだ。
ぱっと開く花火の綺麗さをつけたのか。
でも、すぐ消えてしまうが...。

そのうち、その父親である男は、
「知り合いが近くにいるんだけど、行ってみる?」
という。
「行ってみようか」

その男のバイクが近くに止めてあり、後ろに積んで貰い、
目的の場所へ向かった。

十分ほど走ったろうか、ひろびろとして、庭のある建物の敷地に
入っていった。
平屋のアパートのようだ。
バイクから降りると、その人の知り合いらしい男がいた。
顔はだいぶ日焼けして、年齢も自分と同じくらいだ。
目が眠そうにしている印象だった。

三人でその建物の縁側で話していたが、その知り合いの男は
日本人で、チェンマイに長期滞在しているようだ。
日本の冬にスキー場などでアルバイトし、こがねが溜まるとこっち
にきてぼんやりして過ごしているという。
また、タイ語を学ぶため現地の女性を家庭教師に雇っているそうだ。
時給100バーツと言っていた。

父親である男は言った。
「さっきの店。表に何人か居たろう。
関わらないほうがいいと思って君を連れ出したんだよ」
さっきの店の日本人は何か旅行者を見つけると、よからぬこと
をするというような話だった。

そのうち、先ほどの店で会った奥さんも現れた。
家族でこのアパートを借りているようだ。
しばらく皆で談笑して、ゆったりとしたときを過ごした。

そのうち彼らはタバコに何やら入れて吸い始めた。
「やってみる?」

マリファナの類だと思う。
興味はあったが、
「いいよ」
私は断った。
白い粉が着ているものに付いて、空港で見つかったりしたら、
人生変わるから...。
と思った。

これ以上話していても、自分の旅が止まってしまうと思った。

「それじゃ。ありがとう。これで」

そこで皆と別れた。

日本人でこっちに長期滞在し、ぼんやり過ごしている人は結構いるようだ。
目的もなく(多分そうだろうな)。
日本の社会が嫌になってしまったのかな、と思った。

後日、故郷へ帰ったとき、その男の店という教えられた場所を探したが、
見つからなかった。

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